10)腕自慢はつまらないよ
腕自慢ていっても、ピンキリでね。演奏会自体が腕自慢のピンから、楽器屋さんの店頭で聞こえよがしに大きい音出して吹いてるキリまで、色々あるわな。まぁ、人の自慢話をどれくらい聞いていられるかにもよるけど、あんまり面白いもんじゃないよなあ。でも、よく居るんだわ、自己顕示欲のみでつい吹いてしまう方が。人が聴いてると思うと張り切っちゃうの、傍から聞いてるとすごく良くわかってしまう。どうせなら、もっと大きな欲を持ったらいいと思う。つまり、もっと良いフルート吹きになりたい、いや、もっと良い音楽家になりたい、いや、人間としてもっと立派になりたい。という風にね。 「良い演奏とは」というタイトルで、前に書いたから、読んでくれるとありがたい。で、きょうはその「自己顕示欲」は、少しでも本番に役に立つのかって話だ。
恐らく、モチベーションを高く保つためにはある程度役に立つと思う。だけど、「上がらずに吹ける」かというと、自己顕示欲は「失敗が怖い」という恐怖にも繋がるので、たぶん上手くいかない。で、上手くいかなかったとき、内容が無いと致命傷だ。「致命傷で済んで良かった」っていう冗談で誤魔化せれば次もあるけど。やっぱり、スタート地点を間違えないようにしないとね。しかしだ・・・
オーケストラの1番フルート吹き、大ソロを吹かなくちゃならない・・・オーケストラって嫌なんだよ、ほかのプレーヤーがソロの時、こっちを見ないようにして、耳だけをこっちに集中させてるのすごくよくわかる。聴衆よりも何倍も性質の悪い奴等だからな、結構すごいプレッシャーがかかる。私は、リサイタルで独奏曲吹く時の方が余程楽しい。どんなに上がったって、どんなに上手くいかなくたって、自分の音楽だもん。このオーケストラの大ソロに臨む時、要求される資質って何だろうと考える。覚悟を決めて、腹をくくるしか無い。でも、独奏曲なら「究極の謙虚さをもって音楽の陰に恐怖を隠す」離れ業もできるけど、オーケストラだとそうはいかない。結構、自己顕示欲が助けになったりするんだな。変に考えをこねくりまわすより、「ええい、目立ってやれ!」ってスケベ心で臨んだ方が楽な場合が多い。それがどうしてもできないナイーブなプレーヤーもいて、これはオーケストラのソロ奏者には絶対向かない。「上がる」という恐怖心を抑えるために、本番前にきつい酒をクッとやるのが習慣になって、そのうち指が震えるようになって、それを抑えるためにまたクッとやる、で、アル中になってしまって・・・というプレーヤーを知っている。あんなに上手かったのに、という奏者だった。彼も可哀そうだが、神が与え給うた才能があんな風に朽ちていくのか・・・と見ると、いたたまれない、ひどく胸が痛む。
なんだか悲しくなってきた。
きょうはここまでだ。