虎落笛(もがりぶえ)という季語がある。冬の烈風が生垣や竹の上を通り、笛のような音をたてることをいう。どうやら、電線などがふるえる音も、虎落笛というらしい。さて、太古の昔、人々は過酷な自然の中にあって、その支配に身を委ね、一瞬先のことさえ予測できなかった。災害は突然に襲いかかり、愛するものの命は理由もなく奪われた。ある夜、寒さに凍えていた時だろうか、悲しみに打ちひしがれていた時だろうか、虎落笛がきこえてくる。人々はそれを何と聴いただろう。自然の声、神の声、全てを支配するものの声か。警告であり、脅しであり、あるいは死者からの伝言であったかもしれない。そして、この声と言葉を使うことができるなら、支配者との折り合いをつけられるのではないだろうか、と考えたのだろう。虎落笛の正体を知ったとき、神との会話、支配者との対話が始まったのだ。枯れた葦の茎を切り、息を吹き込んでみる。ぴんと張った草木の弦をはじいてみる・・・。
そして、暖かく豊かな自然に恵まれ、愛する者を得、喜びと支配者への感謝を捧げるときにもまた、笛は奏でられることになったのだ。
フルートを吹くとき、たまにはそこに帰ってみるのも、きっとよい結果をもたらすだろう。