フルートの吹き方 本番(3)

どうしても若い頃は、自分を中心に考えてしまうので、演奏においても自分を中心に置いて考えがちだ。しかし、一歩下がって眺めてみよう。どんなに演奏家がその能力を誇示しようとも、音楽は、作曲家や、聴衆や、音楽の歴史や、伝統や、諸々の助けがあって初めて成立するものであることが分かる。(1月19日)もちろん共演者、スタッフのことも忘れてはいけない。だから、大きな仕事に携わっている一員、しかし重要な一員だと、そのくらいの意識でいいと思う。

理念や、精神論書いても嫌われるから、もっと実践的なことを書こうか。
演奏会が近づいてきたら、不安で眠れないこともあるだろう。そのとき、冷静になってシミュレーションをしてみる。舞台に上がるところから、お辞儀をして曲を始める。曲は全部テンポ通りに正確に最後まで思い浮かべるんだ。途中で眠っちまったら、まだ恐れが足りないな、次の日にやり直せ。で、曲を最後まで正確に思い出すことができて、お辞儀までして、舞台袖に消えるまで。それを「一度も間違えないで」吹けたら、本番でも絶対大丈夫だ。でもね、不思議なんだよな。間違えるんだよ。自分で、自分のことを想像しているだけなのに、間違えるんだな、これが。そこが、怪しいところだ。次に日の、練習の重点におこう。何日やっても間違えるよ。ほんと不思議。このシミュレーションで間違えなくなったらOKだ。大丈夫だ。どうしても、途中で寝ちゃうんです、ってか? いい性格だな。いや、マジで。きっと人気者だろう。じゃ、起きてやるか。その時、本番の衣装着てみるのもアリだな。そうそう、本番の二日前になって、「どうしよう!ドレスの背中閉まら・・・」なんてのがたまに居るからな。男はその辺ごまかせるからいいな。でも、初めてタキシードを着るとか、燕尾服を着るとかの場合は、演奏会自体相当プレッシャーのかかるもののはずだから、やっておいた方がいい。どんな世界でもそうだと思うが、仕事のできる奴はみんな例外なく臆病だ。できない奴に限って、皆がびっくりするほど大胆なんだよな。勇気とは、臆病を恐れないことだな。うん。

あとな、本番前の楽屋でガンガン練習するなよ。大体、楽屋というのは響きすぎるところが多い。舞台に出たとたんに、「あれっ! 鳴らない!」って、気を失っても知らんぞ。耳が響きに慣れちゃってるんだよ。舞台は空間的にも広いから、音が反射して帰ってくるまでの時間が、かなり違う。だから、チューニングやってるふりして、反射音を耳で捉えておくんだよ。だから、チューニングするんなら、ちゃんと音をだしといたほうがいい。コソコソ、適当に合わせたふりするのは無意味。そんなんで、上手そうに見せることもないだろ。私は、チューニングの音が嫌いで、よほどのことが無い限りチューニングはしない。だって、皆、シーンとして、曲始まるの待ってんだろ。楽器の角度が正確で、大体の気温が感じられてりゃ、自分のフルートのピッチ位わかるもんな。ついでに言うけど、イベント会場の音響屋さんのマイクテスト、あれ、気分が悪くなるくらい嫌い。「ッテ! ッテ! ッテスト! ッツ! ッツ! ット!」って永遠にやってる。いかにも、「微妙な仕事してます!」みたいで。プロなら3秒とは言わん、10秒で決めろって言いたいね。なんか突っ込み入りそうだから・・・

あ、それから、出待ちの暗がりで、ジジイ達が(サマジイとも言う)、とんでもない馬鹿話をしていても、とんがるな。あれ、集中力の波作ってんだから。

きょうはここまでだ。