18世紀の音楽には大別して、フランス風の装飾法と、イタリア風の装飾法があった。フランス風の装飾とは、主に、前打音や後打音、そして、トリルやモルデント、ターンなどによって、表現された。イタリア風の装飾はこれにとどまらず、まったく別の自由な変奏という形をとる。特にゆっくりとした曲では、しばしば原型を留めないほどに変奏される。譜例を挙げる。まず、フランス風装飾の例だ。曲は クープラン(François Couperin 1688-1733)の王宮のコンセール(Concerts royaux)から。
次がイタリア風装飾の例。コレッリ(Arcangelo Corelli 1653-1713)のヴァイオリンソナタをジェミニアーニ(Francesco Geminiani 1687-1762)が演奏したもの。
上段がジェミニアーニの弾いたもの。中段がコレッリの原型だ。あえて、通奏低音譜も付けておいた。違いは一目瞭然でしょ。
ここで面白いのは、当時のこんなセリフだ。「イタリア風の作品がフランス風に、フランス風の作品がイタリア風に、あるいは両方の作品がひとつの様式で、歌い演奏されるのを聞いて、ひどい吐き気を催した」(ヨハン・アドルフ・シャイベ、ハンス・ペーター・シュミッツ著「バロック音楽の装飾法」)あはは、面白いね。誰だよ、「八代亜紀のジャズ」なんて言ってるのは。昔、あるオペラ歌手が、まんまの歌い方でナツメロ歌って、顰蹙買ってたな。
だけど、当然湧く疑問。ドイツは何してたの? クヴァンツとか、C.P.E.バッハなんかのベルリン楽派は、イタリア様式とフランス様式の混合が目標だったらしい。吐き気、我慢してたんだな。でも、その努力が、19世紀のドイツ古典派の発展に結びついたという。う~ん。奥が深いな、歴史は。
フランス様式はそれほどでもないのだが、イタリア様式の装飾を試みようとすると、通奏低音の知識が必要になってくる。チェンバリストになるわけじゃないので、数字の読み方と、終止の定型くらい知っておけばいいんじゃないかな。次回は、このへんの事についてチラッと述べるつもりだ。
きょうはここまでだ。