前回の装飾(3)で、アーティキュレイションについて「自由にやろうぜ!」って書いたんだけど、私なりに大事にしている基準というものはある。例えば次の音型だ。
これはモーツァルトアーティキュレイションと言われるものだ。モーツァルト以前にはほとんど出てこない。モーツァルトのアレグロの楽章にしばしば用いられる。モーツァルトの革新的な特徴は”Singen des Allegro”すなわち「歌うアレグロ」にあった。その重要な要素がこのアーティキュレイションにある。だから、これは敬愛するモーツァルトのために取っておきたい。私は、モーツァルト以前の音楽に、このアーティキュレイションを意識して用いない。ついでに、この四つの音符がどのように演奏されるべきかを述べておく。いや、「べき」って自分に言ってるだけだからさ。あまり窮屈に考えないでね、みなさん、自分のスタイルを開発してください。
1)最初の十六分音符はスラーの頭なのでタンギングはde。やや丁寧に目立たぬわずかのアクセントが付く。あるいはやや長め。
2)二番目の十六分音符は、スタカートの直前なので当然短く切る。ただし、「短く切りすぎ」に要注意、鳴りきる前に切れないように、僅かに意識して鳴らしてから切る。特に前の音符より低い場合には、この傾向が出やすいので注意を要する。
3)三番目と四番目の十六分音符は、玉のように艶やかで、はっきりと分離していること。そして、次の音符へのアウフタクトとしての役割を持っていること。つまり、三番目に比べて四番目がしょぼくならないこと。スタカートの技術が問われる場面でもある。
「うるせえよ!」と思うだろ? でも、これ、ちゃんとできるとモーツァルトが見違えるような高級車になる。いや、もともと高級車なんだから、綺麗にしとかないとかえってみっともない。コンクールやオーディションの最後に、モーツァルトのコンチェルトが課される理由に納得がいく。
へえ、モーツァルトだけかい? って、上手いね、怒らせるの。んじゃ、バッハだ。
これ、J.S.Bachが好んだ。特に、なんとなく悲しい場面とか、激情の場面でね。
上(1段目)が、e-moll(ホ短調)のソナタB.W.V.1034.。下(2~4段目)が、マタイ受難曲から”O Mensch, bewein’ dein’ Sünde groß” 「人よ、汝の大いなる罪を悲しめ」から。
これらは、スラーの最初の音符を長く、つまり、スラーで結ばれた二つの音符は不均等に演奏される。クヴァンツだったかな、7対5って言ったのは。「適当に言うなよ!」だよな。ちなみに、バッハだけでなく他の作曲家でも、二つずつのスラーが続く場合、ゆっくりの楽章では不均等に、早い楽章では二番目の音を短く切るようにすると良い。
きょうはここまでだ。