フルートの吹き方 音程(7)

音程については、「疑問・調整・妥協」によって決まると述べてきた。それは楽器製作の次元でもまったく同様なので、少なくとも正しい楽器の調整と、設計思想に沿った吹き方が求められる。きょうは、「それでもまだ音程の問題からは解放されない」だ。そう、「吹き方」だ。フルート吹きなら誰でも知っていることだが、フルートは「音程が悪い」楽器なのだ。しかし、思い出して欲しい。楽器の持ち方はどこか決められた数点で楽器を保持するのではなく、バランスで持つべきだと書いた。息取りは、息を吸うことを音楽表現の中に取り込もうと書いた。だから、音程の問題も、そのコントロールによって、私たちの音楽表現の輝かしさを、いっそう増すものとなるのではないか、と考える。

フルートに対して、私たちは息をどのように当てるかを考えてみよう。そこには様々な条件があって、それらはそれぞれが独立しているわけではないので、これをこうすればこのようになると結論付けることは難しい。例えば、「息をやや下に吹き込む」と、音程は下がる。しかし、これが、単に息の角度によってもたらされたのか、息を下に吹き込むためにフルートを内側に回転させたことにより、唇の息穴と歌口のエッジが近づいたからなのか、判別するのは難しい。さらに、この場合、倍音構造が変化して音色が変わるのだが、そのことが耳で感じる音程に影響を与えているだろう。また、管内に息をより多く吹き込むと、管からの抵抗も大きくなるので、息のスピードも落ちるかもしれない。このうちどれが、音程を下げさせる条件となったかを説明するのは難しい。演奏をしている上で、我々はしばしば音程を補正しなければならないが、「高いときはこうする」「低いときはこうする」といった、決め手になるような技術は無いと思っていたほうが良い。ある局面で音程が低すぎると感じたとしよう。補正するのに、楽器を外側に回すのか、息をやや前方に出すのか、息のスピードを上げるのか、さらに「倍音が多い音は高く聴こえる」事を利用するのか、解決法は様々だ。

ただ、注意点としていくつかを挙げることはできる。低い音域では下がり気味、高い音域では上がり気味。フォルテは上ずり、ピアノはぶら下がる、同様にクレシェンドは上ずり、ディミヌエンドはぶら下がる。フレーズの最後はぶら下がる。息のスピードを上げると音程は上がる。息の量を多くすると音程は上がる。楽器が温まれば音程は上がる。下を向けば音程は下がり、上を向けば音程は上がる。冗談で言っているわけではないぞ。楽譜にかじりついていると、楽譜の上下は30センチもあるのだから、当然上段と下段では姿勢が違ってくる。音程も変わってくるよ。

数回前に私は、音程を体温に例えた。興奮すれば上がり、落ち着けば下がる。高熱は確かに身体にダメージを与えるが、しかしその一方で、自身を守るために何かと戦っているのだ。ダメージを避けるために体温を下げるのか、戦うことを優先するのか。いずれにしても、機械で常に一定の体温を保つことなど、不健康極まりないだろう。何度も言うが、音楽も同じ、生きている。上ずり、ぶら下がる音程、どちらも負の要素ととらえずに、利用すれば私たちの音楽を、より強く輝かしいものにしてくれるはずだ。

ちょっと書き足りない気もするが、錦織君の試合が始まるから・・・

きょうはここまでだ。