昨日もちょっと触れたが、我々はフルートのチューニングの際に、頭部管と胴部管の抜き差しによってその調整をする。だがしかし、考えてみよう。もし、何らかの事情によって、自分の楽器全体の音程が低い場合、本当は「全体が小さい(短い)」楽器を必要とするはずである。単に頭部と胴体の距離を縮めるのではなく、キイ同士の間隔を僅かずつ少なくしていかなければならないはずだ。だから、頭部管を押し込んでいると右手の音域で、相対的に音程はぶら下がり気味になる。逆に、抜きすぎていると右手の音域は上ずり気味になる。
何度も言うが、最初にAをチューナーで合わせたとしても、このことを考慮しなければ、チューニングは何の役にも立たない。結局のところ、一番誤差を少なくして吹くためには、「設計通り」に吹くのが一番ストレスが少ないのだが、さてさて、各メーカーで、どんな考えと計算のもとに設計されているかまでは、なかなか教えてもらえない。それに、作る方だって、倍音という純粋な物理現象に従おうとする「管の物理的特性」を、平均律に合わせられるように、工夫と妥協を重ねて作っているわけだ。如何ともし難い音程の癖が出現するのは当たり前だし、奏者はそのことを熟知していなければならない。
楽器自体の持つ音程の癖を知る前に、まず楽器の調整をしっかりしておこう。特に音程に影響があるのは、頭部管内の反射板の位置だ。これは、オクターブの広さにかなりな影響を与える。だからと言って、自分の吹き方に合わせて調整してはいけない。こればっかりは、歌口部分の直径と等距離(17ミリ)に合わせておかなければ、響きや音色など、音の根幹部分に影響が及ぶ。掃除棒のしっぽにあるマークも、数本比べるとえらく誤差がある、きちんと17ミリの位置にマークがあるかも要チェックだぞ。その調整をしてもなお、1オクターブ目と2オクターブ目のE(ミ)からH(し)位の間でオクターブが狂うようだと、吹き方が正しくない可能性が高い。
さて、楽器の調整もOK、吹き方も悪くないという前提で、ごく一般的な現代フルートの音程の癖について整理しておこう。以下に述べるのは、あくまでも平均律の音程を基準にしているから、実際の演奏では必ず修正しなければならないというものではない。まず、一番癖が出やすいのがD(レ)だ。第1オクターブのDは大体低めだ。これは、吹き方によることが大きい、低音を出すために、必要以上に息を下向きに入れていると、当然低すぎることになる。また、正しく吹いても、第3オクターブのDは明らかに低い。これは、常に修正が必要だ。第2オクターブは、やや高めの傾向がある。ただし、先に述べた頭部管の抜き差しの量で、高くない場合もある。Cis(ド#)も厄介な音程だ。1オクターブ目は低く、2オクターブ目は高く、3オクターブ目は低い。1オクターブ目は、D(レ)と同じ理由。2オクターブ目は、指使いから分かるように、管が最短の状態で、吹いたときの管からの抵抗が最も少ない。それによって、息が腹で正しくコントロールされていないと、息が入りすぎて高くなる。3オクターブ目は正しく吹いていると低めになる筈だ。これが高いと、2オクターブ目はどえらく高いはずだ。
3オクターブ目が全部高くなるようなら、昨日書いたように、吹き方を疑ってみるべきだろう。正しく吹いても、Es(ミ♭)とFis(ファ#)はやや高く、A(ラ)はかなり低いはずだ。B(シ♭)とH(シ)が低くなるのは右手の小指を離せば、いくらか修正できる。というか、離すのが正しい指使いだ。
一般論として書いたが、実践では音程はもっと上下するから、あんまり役立たないかもな。
明日は、吹き手に起因する音程の問題を扱おうと思う。
きょうはここまでだ。