フルートの吹き方 音程(2)

昨日、チューナーの使い道として、楽器の調整、吹き方の偏りと挙げておいた。チューナーが信用できるのは、オクターブを測る時だけだからだ。奏法においても、楽器の調整においても、オクターブはしっかり振動数2倍の音程として保たれなければならないだろう。ついでに言っておくと、オクターブの次に協和するはずの完全五度でさえ、チューナーは正確に示すことができない。純正調を示すアプリもあるけど、それはそれでかなり面倒な使い方になる。

留学中にベルリンフィルを何十回も聞いた。興奮してくるとピッチが確実に高くなる。それは、あのオーケストラにとって改めねばならぬことなのだろうか? 「いや、ベルリンフィルだから許される」というかもしれない。しかし、それはもっと違うと私は思う。音楽とは、命そのものだと私は言い続けてきた。だから、呼吸があり、鼓動があり、体温がある。美しい人、あるいはハンサムな男性に見つめられたら、呼吸は浅くなり、鼓動は早くなり、体温は上がる。はずだ。そんな事は無い、というのなら、フルートの練習より、おしゃれでもして街に出たほうが、よほど充実した人生になるだろう。ピッチは変動する。私見だが、いや、偏見だが、ピアニストによく「興奮したフリ」をして弾く人がいる。髪振り乱して、鍵盤に腕をたたきつけるようにして、「臭っさぁ」ってのが「よく」居る。演奏にとって、視覚的要素も重要なんだが、あの過剰な動作はきっと、「いくら興奮しても体温が上がらない」フラストレーションのせいじゃないかと勝手に思っている。ま、オーケストラだって、どんどんピッチが変わっていいわけでなく、音程を変えられない打楽器系の楽器(グロッケン、チャイムetc)が出てくるところでは配慮が必要だけど。(大抵低く聴こえるよな。)

ヴィブラートについて考えてみよう。ヴィブラートというのは、音の強弱の揺れと、高低の揺れによって行われる。美しいヴィブラートの振幅は、通常の音域ではあるべき音高の6~8%、振動数においても6~8ヘルツと言われている。(ハンス・ペーター・シュミッツ「演奏の原理」)これ、かなりデカいぞ。デカいと同時に、それぐらいの幅は、必要な幅として許されているという事である。だから、フルートでハーモニーを形成する場合、ヴィブラートをかけるだけでかなり調和して聴こえるようになる。(この意味において、ヴィブラートは必須の技術である。)

さらに、音に含まれる倍音の多寡、質によって測られた音程よりも、低く聴こえたり、高く聴こえたりするし、会場の残響も一定の音程を保っては聴こえない。そして、こういった事情の中で音楽が行われている以上、「音程」とは、ある瞬間に定まった正しい音程が想定できるわけではなく、常に、「高いのか、低いのか」という疑問、調整、妥協の中でそれぞれの奏者によってきめられていく。としか言いようがない。だから、「音程に自信がない」というのは、ある意味で正しい意識だ。しかし、それをチューナーの針で解決してしまうのは、「最悪の解決方法」ではないだろうか。

疑問、調整、妥協と書いたが、それこそ我々が練習によって獲得すべきものであり、経験が大きな役割を果たす。では、どんな訓練が効果的か。ある音と同度の音を重ねて歌う、出す。オクターブ上下を重ねて歌う、出す。完全五度上を重ねて歌う、出す。その時、「合っているか」なんて考えなくていいんだ。「気持ち良くなるまでやってみる」だけでいい。きっと、「これだっ」っていうポイントを見つけられる。だって、鼓膜は膜だから。なるべく一定の音程を保てる楽器の音とともにやってみるのが簡単で良いのだが、えてしてこの種の楽器は電子楽器だったりする。それでもいいけど、私的には、電子楽器の音はちょっとやり難いと感じている。フルート2本でやるともっと勉強になる。相手が下がりゃこっちも下げるしかないしね。慣れてきたらフルート3本で三和音を耳で作ってみようか。きっと、ほんとに美しい和音が聴こえてくるぞ。保証する。ま、それでもチューナーは踏みつぶさないで家に置いとこうな。

きょうはここまでだ。