きょう、当工務店に施主から依頼があった。ヘンデル設計事務所のソナタ仕様で家を建てて欲しいという。
ヘンデル設計事務所は、18世紀にあった大手設計事務所であるが、図面だけが残されており、しかしこれがまた素敵な家なんだな。明暗の対比が特徴の当時の様式に沿っており、間取りは4部屋。最初の部屋と、次の部屋は明暗のセットになっており、最初の部屋は、来客をもてなす部屋で、ゆったりとした空間になっている。第二の部屋はちょっとした活動的な空間で、室内での活動的なゲームなんかに使われる。第一の部屋と、第二の部屋の間にはドアなどは無く、ほとんど繋がっている。専門的に言うと、半終止・アタッカ構造と言うんだ。廊下を隔てた第三と第四の部屋もセットだ。第三の部屋は、ゲームに疲れた人たちが、ゆっくりと休める空間になっている。やはり、第四の部屋とは第一部屋と第二部屋の関係と同じ半終止・アタッカ構造で、繋がっている。第四の部屋は、明るく景色が良くて、くつろいだ客はおしゃべりして楽しむことができる。
ヘンデル設計の図面には、この大まかな間取りに沿った柱の構造だけが示されており、壁や内装等は工務店の技量に任されている。設計された当時は、まだ入手できる素材に限りがあって、ほとんどは漆喰の壁だったようだ。ただ、明暗の対比が価値観の中心だったので、第一と第三のゆったりした部屋の壁は黒の漆喰、第二と第四の部屋は白の漆喰と、かなりコントラストが激しい。この漆喰の壁には装飾が施されるのが普通であるが、施工代金をケチると何の装飾もない壁だったり、工務店自体に最初っから装飾なんか付けるつもりのないところもある。でも、それは、まだましな方で、悪徳業者に引っかかると、柱だけで完成だと言うんだ。壁なんか付いてないから、これじゃ住めない。クレーム付けると、「設計図通りですけど何か?」と言って平気な顔だ。
壁の装飾は、当時のイタリア工務店だと、柱を覆うように壁を作り、天井から床まで装飾でびっしりだ。フランスの工務店は、それとは違って、柱と柱の間に壁を作り、装飾もとてもシンプルなものを使う。さて、当工務店だが、施主の「ちょっとぶっ飛んだ」趣味から、新素材も検討しなくちゃならない。19世紀になると、明暗の対比による白黒壁から、グラデーション壁が発明されて、間取りも自由になった。第四の部屋が豪華絢爛になって、主人の自慢気な様子が私にはちょっと気に障るところだ。
現代素材にも色々あって、最新はバーチャル壁とかプロジェクションマッピングなんてのがあるが、これはヘンデル設計の図面にはちょっと無理だ。でも、そのうち上手くやってくれる奴が出てくるだろう。ロック金属の出したヘビーメタルも面白いが、これは自由建築に合った素材で、小さく切り取るのは無理だろうな。それなら、ジャズ工業製のスゥィング素材が面白いかな。ちょっとおとなしいけど。スゥィング・ディテールは18世紀にもあったし、ヘンデル設計の美しい柱の組み合わせを生かして使えるかも。そうそう、日本製の演歌ビニールも考えないではないけど、柱の強さに対して、どうも素材が弱いな・・・ワクワクするなぁ