フルートの吹き方 良い音を出すには・・・(6)

 高い音が出ない、出ても細い、雑音が多い、フォルテ、ピアノができない、音程が高い。低い音が出ない、出ても、音の立ち上がりが遅い、暗い、フォルテ、ピアノができない、音程が低い。息が続かない。フルート吹きの悩みは深いのだな。

 息の穴は大きくしたり、小さくしたりすることによって、息の量とスピードをコントロールする。もちろん、腹からどんな息を出すかも重要だし、楽器の回転や、息を出す方向の調整も、実際には必要だ。でもな、名手がいつもそんなに大変なことをやってると思うか?本当は、簡単なんだよ。

 前回、最後に小さな実験を提案しておいたが、いかがだっただろうか?たぶん、楽器無しで息を出すのと、楽器で実際に音を出すのとでは、伸ばせる長さに相当の開きがあったことと思う。その差こそが、私たちが、フルートを吹くときに、誤解している部分だ。つまり、フルートを吹くときに、私たちは、思っているよりもはるかに多くの息を使ってしまっている。フルートを構えたとたんに、(唇に触れた瞬間に)息の穴は大きくなってしまっているのだ。フルートを吹こう、音を出してやろうと思うからだ。その時こそ、私たちは注意深く振舞わなくてはならないだろう。そこで唇に力を入れるのか?横に引くのか?たぶん違う。どんな吹き方が理想かと問われれば、何もしないで音を出すことだと答えよう。それは、唇から始まって、指、呼吸、姿勢、そして精神までもだ。無だ。無の境地だ。剣豪は剣を抜かずに、敵を倒すのだよ。西洋音楽に無の境地なんて有るめぇよ、って思ったか?私の深く敬愛するハンス・ペーター・シュミッツ博士は、しきりに禅の境地に学んだと言ってたぞ。

 私たちは、命の証である息のどんな一粒も無駄にしてはいけない。だから、一粒の息でも音を出せるようにしなくてはならない。もし、それが本当に私たちの最後の一粒だとしたら、どれほどの輝きが得られようか。あらゆる喜びと、あらゆる悲しみを超えた輝きに違いないだろう。音楽が意味を持つ偉大な瞬間がここに訪れる。いつも考えよう。「この息が、最後の一粒だったら、何を語るのか」と。

 「命の証である息を最大の効率で音に替える」ことができたとき、それはどんな音なのだろうか?ひとりひとり違う命、体形、骨格、口の形、唇の質、歯並び、楽器だって一本一本違う。だから、その時、出てくる音はきっと「誰も聴いたことがない」ような素晴らしい音のはずだ。それを信じることだ。そして、何よりも重要なことは、その(あなただけの)音を得られるチャンスは、何十年フルートを吹いているヴェテランにも、初めて今、楽器を持った初心者にも、平等に存在するということだ。努力によってか、偶然によってか、どちらでもいいじゃないか、とにかく息が全部音に変わればよいのだよ。明日、あなたはその音を聴くことができる。

今日はここまでだ。