続・続ひっそりと再開

いい学校へ行きたいな

 暑い夏だった。ほとんど泊まりがけのようにして少年は毎日勉強した。まだこの頃は必死でとか、朝から晩までとかいうんじゃなくて、ほっときゃ弟と遊んでる。色々工夫をしたな。チャイムの音をダウンロードして流したり、「たいへん良くできました」ハンコのほかに、「恥」とか「ダメ」ハンコも作った。算数はキッチンタイマーをかけて、競争で問題を解いた。塾で出された問題集をスキャンして、書いてあるところを消して、2部作ってね。悔しがらせたり、ムキにならせたり、得意にならせたりとまだその頃はお釈迦様と孫悟空よ。ある夏の晩、兄弟で風呂に入っている。湯船の中で少年が弟に聞いている。「なぁ、お前はどんな学校に行きたい?」弟はまだ何にも解っとらんから「・・・・」。少年がしみじみと言う。「にいには、いい学校に行きたいなぁ」。ジンとくるものがあったよ。「いい学校」ってのが、いったいどういう学校なのかきっと本人にもよく解っていなかったとは思う。でも、何か目指すものに向かって進んでいきたいという子供らしい生命力に、新鮮な感動があった。そして、「いい学校へ行きたいな」という気持ちこそがその後の彼を支えることになったし、彼だけでなく、じじとばあばのモチベーションもその気持ちに根差すことになった。
 こうやって書いていると、いかにも真面目な少年の奮闘記のように見えるけれど、実際は、なかなか勉強しなかったな。iPADでくだらんのを見てキャッキャッ笑ってる。黙っているといつまでもだ。ドラえもんとかクレヨンしんちゃんとか、六年生の12月まで見てた。食事は一所懸命作ったよ。年寄りの夫婦だけなら余り物で簡単に誤魔化したりもできるが、なんたってよそ様のお子様だからさ。何食べたい?って聞くと必ず「餃子!」って言うんだよ。ウチの餃子知ってる?知るわきゃないよな。皮から作るんだ、ひき肉は塊を挽いて作るんだ。死ぬほどめんどくさいの。・・だからウマいわけよ・・頑張った時はご褒美に一所懸命に作ったよ。この少年、具合が悪くなると何にも食べなくなる。食べるのは唯一、俺の作る納豆巻き。コロナにもかかったし、インフルエンザにもなったから、何回作ったことか。
 ま、結局その年の最後、上から2番目のクラスまで上がった。でも、世の中そんなに上手くはいかない。行くはずもない。

今日はここまでだ。
あと2分でレッスンだからな。

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