偏差値28
少年には2歳下の弟がいて、二人でいつもくだらん遊びをして、仲良く喧嘩をしていた。こういう場合、弟が賢くなるというより、兄が幼くなるな。だって、勉強するより幼い弟と遊んでいる方が楽だし。よくよく聞けば、今回のマンスリーテストが酷い出来で、偏差値28という見たこともないようなスコアを叩き出したらしい。やるな。下から1.4%だ。国語だけなら偏差値18だ。ケツだな。毎日の1ページ10問の算数も、3月からやってない。
「なぁ、じいじはなぁ、弟と遊びすぎるんじゃないかと思うんだよ。」「・・・」涙目でコックリと頷く。「まず、一日に15分だけ自分の時間を作ってみようよ」コックリ。「そして算数だ。算数が遅れると取り戻せなくなるからじいじと一緒にやろうぜ」コックリ。「算数のやってないページはこれから追いつくまで一日5ページやるぞ」コックリ。
次の日、少年はどうしたか。15分早起きしたんだよ、弟を起こさないようにして。俺なんかガキの頃、6歳上の兄にぶん殴られたり無視されたりは普通だったから、「いやぁ、なんて優しいヤツなんだ」って思ったね。少年一家は一駅隣りに住んでいるんだが、この日から2年半、塾のないほとんどの日を、少年は我が家へ勉強のために通って来ることになる。算数は全部いっしょに問題を解いた。・・実は結構面白かった・・ 程なく3月からのやり残し分は解消した。女房は国語を担当することになった。私と女房と娘はそれぞれ性格が違っていて、娘は「鳴かぬなら泣くまで待とう・・・」、女房は「・・・殺してしまえ・・・」、私はどちらかというと「・・鳴かせてみよう・・」派だ。だから、この頃女房は「ドンケツにいるくらいなら意味ないから、塾なんか止めちまえ!」って夜も眠れなかったそうだ。その女房が、国語を担当し、資料整理を請け負い、最後まで少年の伴走をすることになる。
次の月、7月のマンスリーテスト。2階級特進した。8クラスあって、下からA~F、そして上の2クラスがα2とα1だ。毎月テストがあって、上下2クラスまで移動がある。時々は、上降制限のないテストもあって、これはトップからドンケツまで落ちちゃう可能性もあるテストだ。AからCになったわけだ。「よし、今年中にαクラスまで行くぞ!」と、俺は密かに決意する。少年と一緒に勉強を始める前までは、成績があまり芳しく無いことは聞いていた。でも、「馬を水飲み場に連れて行っても、最後に首を下げるのは馬自身だからなぁ・・・」と思っていた。いま、その馬が、首を下げつつあった。
まだ続くぞ。
昼飯の支度だ。手打ちラーメンだ。
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