フルートの吹き方 装飾(3)

例えば何か工芸品に装飾を施そうと考えたとき、どんなことが思い浮かぶだろう。滑らかにする。際立たせる。優美な曲線にする。磨く。文様を描く。これ、全て音楽にも当てはまる。例えば、スラーは単に「タンギングをしないで一息で吹く」記号ではなく、「レガート=結ばれた」記号なのだから、スラーをかけるときは「もっと滑らかに繋がらないものか」と考えるべきだろう。トリルと後打音を優美な曲線を描くように、あるいは美しい文様を描くように吹かなくてはならない。これが、装飾音に対する考え方だ。「素早く入れる」ことにはあまり労力を割かないほうが良い。

昨日書いたように、装飾は自分でつけることに慣れたほうが良い。楽譜に書いてある通りに吹くことが第一の目的なら、そうすればよいのだが、バロック期の曲など、全くスラーもスタカートも書かれていない。J.S.Bachの Partita a moll(フルートソロのためのパルティータ、イ短調 BWV1013)第一楽章、Allemandeには、スラーもスタカートも書かれていない。

これを演奏する時、「何も書かれていないから」そのまま何もせずに演奏したら、これは明らかに間違いと言える。そもそも、「スラーでもスタカートでも無い旋律」は存在しないと考えたほうが良い。基本的に、ゆっくりの楽章はスラーが多用され、速い楽章ではそれぞれの音符は短く演奏された。原則だ。だが、その中に在って、輝く装飾を施そうとするなら、自分のセンスに従ってスラーやスタカートを付けなくてはならない。いくらクヴァンツが「下品な装飾を付けるなら、そのまま吹いた方がまし」と言っても、そんなもん、余計なお世話だ。気にする事は無い。どんどん、付けてみないことには先に進めない。

バロック期の音楽にスラーを付けるヒントをいくつか挙げておこう。
1)装飾は強調点に付けられるので、強勢に好んで付けられる。この場合強勢とは、1拍目とアウフタクトだ。(すげぇ大雑把だが)。
2)書き込まれた装飾型はスラーで結ぶ。トリルや、ターンや、モルデントの音型がある場合、これを一つのスラーに収める。
3)跳躍よりは順次進行に好んで付けられる。
4)どちらかと言えば上行よりは下降を好む。

この条件で、例えばこんなスラーが描けたとしよう。

最初の二つはモルデントだ。3つ目と5つ目は前打音、4つ目と6つ目はアウフタクト・下降の順次進行だ。しかしこれでいいのだろうか? 他には無いのだろうか? 1小節目の前半と後半は繰り返しだ。2小節目と3小節目も繰り返しだ。これを、どう変化させるか。アーティキュレイションを変えるのか、強弱の変化をつけるのか。ね、スラーを付けるためのTIPを少しばかり知っていたとしても、答えは出ない。これから先はセンスだ。そして、有難いことに、私たちは、バッハ以後の、モーツァルトも、ベートーヴェンも、ブラームスも、ドビュッシーも、ヒンデミットも、現代音楽も、ジャズも、演歌も知っている。それらを聴いたこともないようなフリをして、「あの時代はこうだった」なんてカビ臭いきまりに、縛られる必要は微塵もないんじゃないか?

自由にやろうぜ。感じること、やってみること、勇気を持つこと、それが音楽を我々のものにする。

きょうはここまでだ。