フルートの吹き方 癖(3)

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吹き方の癖、アンブシュアの癖というのが最も微妙で厄介な問題だ。そもそも、何が正しくて、何が癖かの判断が難しい。しかし、フルートの全ての音域で、強弱や、音色の変化の要求を満たすためには、それなりの柔軟性を持った吹き方は必要だろう。それぞれの局面で、難易度に差があるとしても、「苦手」はなるべく無くしておいた方が良い。

よほどの事情がない限り、唇の中心で吹くことを強くお勧めする。フルート奏者は音楽上の様々な要求にこたえるために、息のスピードや、角度、形、太さ等を臨機応変に、そして瞬時に変えなければならない。しかしその時、息の中心は、必ず歌口の中心を捉えていなければならない。もし、唇の横で息穴を作っていたら、唇に加える力が変化したときに、この中心が狂う可能性が高くなる。そうすると、高音域などで唇に力が加わった時に、発音が困難になってしまうことがある。心当たりがあったら、一度鏡で確認してみよう。鏡は、譜面台に置くより、壁に平行な姿見のようなものがいい。そして、鏡に10センチくらいまで近付いて息の穴の状態をよく研究するんだ。正しいアンブシュアを身に付ければ、4オクターブ目のE(ミ)までは大抵の楽器で出せるようになる。

もうひとつ重要なのは、前回にも述べたが、加齢による顔の変化だ。顔の形は絶対変わっていくのだから、厳密にいえば、日々修正が加えられなければならない。この時、唇の真ん中で吹いているのと、微妙な力加減で横で吹いているのとでは、大きな労力の差ができる。はっきり言おうか。唇の横で吹いている奏者は、多くの場合歳を取ると音色がボロボロになる。別に「横」だけじゃなく、不自然な力を必要とする吹き方は、加齢による変化への対応が難しい。

なぜ、加齢による変化まで気にしなくてはならないのか。それは、吹き方の修正はとても難しいからだ。だから、できれば最初から、真ん中で吹くことを覚えて欲しい。これは99%先生の責任であると思う。どのようなアンブシュアが理想なのかは、「良い音を出には」をご覧いただけたらと思う。

昨日書いたが、ハンス・ペーター・シュミッツ博士のクラスでは、最初の半年間1オクターブ目のH(シ)しか吹かせない。音階練習も、エチュードも禁止だ。そこで、真ん中で吹くことを強制される訳では決してないが、しかし、アンブシュアの再構築は、音ひとつで半年間も練習しなければならないほどの問題なのだ。だから、最初から身に着けておいた方がいい、そして、直すなら早いに越した事は無い。

アンブシュアの癖を直すのは、現在の修正というより、一から作り替えをするんだと決めたほうが良い。覚悟と、忍耐が、そしてそれを支える勇気が必要だ。たとえ、半年かかったとしても、その後に開ける道は遥かに遠いところまで続いているはずだから。

きょうはここまでだ。